
きっかけは日銀の統計ミス。しかし問題はもっと深刻だ。
今月23日、毎日新聞で衝撃的なニュースが報じられました。
個人の代表的投資商品である「投資信託」の家計保有額が、日銀の統計作成時の誤りで30兆円以上も過大計上されていたことが判明したのです。
日銀調査統計局は、「調査項目が多数あり、見直しが追いつかなかった」と釈明していますが、個別指標で30兆円も変わる改定など今まで聞いたこともありません。
この問題を受けて、日本証券業協会の鈴木茂晴会長は24日の定例会見で、「証券業界は日銀が発表する数字を見ていろいろ言っており、数字の変更は困る。こういうことがないようにしてほしい」と苦言を呈しました。
家計保有資産と個人の金融資産が激減
過剰計上があったのは、金融機関や家計など各部門の資産や負債の推移などを示す「資金循環統計」です。
資金循環統計では、年1回調査方法を見直す改定を行っており、今回の過剰統計は今年6月下旬発表分の改定値を算出する際に見つかりました。
2005年以降の数値をさかのぼって改定した結果、2017年12月末の家計の投信保有額は、改定前の109兆1000億円から約33兆円少ない76兆4000億円まで激減しました。
また、個人金融資産に占める投信の割合も、改定前は2012年の3.8%から2017年の5.8%まで上昇していましたが、改定後は2014年の4.6%をピークに低下し、2017年は4.1%まで下落していたのです。
原因はゆうちょ銀行保有の投信の誤計算
これほど大きな修正が生じたのは、ゆうちょ銀行が保有する投信を個人が保有しているものと誤って計算していたことが原因です。
家計の保有額は、投信の総額から、金融機関など他部門の保有額を差し引くことで算出しています。
日銀が改定作業を行う際、ゆうちょ銀の保有分でこれまで「外国債券」としていた資産の一部が実は投信だったことが判明、改定後はその分だけ金融機関の投信保有額が膨らみ、逆に家計保有分は減額されました。
また、ゆうちょ銀が近年、比較的利回りのいい投信の保有額を急増させていたことも、誤差が広がる要因となったようです。
問題は「貯蓄から投資へ」の失敗
30億円ならまだしも、個別指標で30兆円も変わる改定は前代未聞で、このような統計ミスは決してあってはなりません。
しかしそれより問題なのは、政府が推し進めてきた「貯蓄から投資へ」という政策が失敗だったという事実です。
政府は、現預金に偏る家計の資金が、経済成長に資する企業への投資資金として回るような政策を進め、また証券業界も、毎年120万円の非課税投資枠を設定し、株式・投資信託等の配当・譲渡益等が非課税対象となる「NISA」などの普及に注力してきました。
これらの施策を実行したものの、従来は上昇基調が続いているとみられた家計の金融資産における投信の割合が、実際には2014年末をピークに低下傾向に転じていたことが分かったのです。
もう少し早く失敗に気づいていれば、軌道修正も容易にできたかもしれませんが、発覚が遅れたことにより有効なリカバリー策を講じることもできず、かえって傷口を広げる結果になってしまいました。
証券業界は、今年1月から始まった少額投資非課税制度「つみたてNISA」によって若年層の取り込みに注力していますが、今回の報道で「思ったほど投資信託は買われていない」という認識が広がり、投資信託の販売が低調になる可能性もあります。
これまで政府は、個人の投信保有額が増加したのはアベノミクスの効果だと強調してきましたが、実際は増えていないどころか大きく減っており、政権の根幹に関わる大問題に発展することも考えられます。
政府の認識以上に個人の投資への動きが進んでいないのであれば、手遅れとなる前にもっと大胆な施策を打ち出すべきではないでしょうか。
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