
イーロン・マスクvsヘッジファンド、戦いは最終章へ
5月2日に行われた米電気自動車(EV)メーカー、テスラの決算発表後の電話会議は、異例ともいえる大荒れの展開となりました。
テスラのCEO・イーロン・マスク氏は、資金需要に関する質問をしたアナリストに対して「退屈で間抜けな質問はクールじゃない」と回答を拒否し、ユーチューバーからの質問に切り替えたのです。
このマスク氏の振る舞いに、少なくとも3社の証券会社が電話会議後にテスラの目標株価を引き下げ、一時15%近く急落する事態となりました。
正念場を迎えるテスラ
マスク氏のカリスマ性に惚れ込んだ個人投資家から多くの支持を集めているテスラですが、創業から13年が経った今でも利益体制を確保できていません。
テスラの第4四半期決算は純損失が6億7540万ドルとなり、過去最大の赤字となりました。この赤字額はアナリスト予想ほど大幅ではなかったものの、赤字幅は前年同期の1億2130万ドルから大きく拡大しています。
テスラは、新型セダン「モデル3」の生産台数について、第2四半期末までに週5,000台の目標を掲げていますが、生産スケジュールに大きな遅延が発生した結果、第4四半期の納入台数はわずか1,550台にとどまり、アナリスト予想の4,100台を大幅に下回りました。
強気のマスク氏は7日、第2四半期末までに週5,000台という目標を堅持し、2018年中に黒字転換するとの見通しを示しています。
しかしアナリストはこの見通しに懐疑的で、このままテスラの業績が上向かず保有現金が今のペースで減り続ければ、今3四半期以内の資本調達が避けられないと見ています。
破綻を予想するチャノス氏と将来性に賭けるソロス氏
テスラは空売りの多い銘柄として知られており、米マーケット・ウォッチによると5月末時点の空売り残高は3887万7708株もあり、発行済みの浮動株に対して約30%を占める状況となっています。
米エネルギー取引会社エンロン破綻を見抜いたことで一躍有名になった、キニコス・アソイエイツのジム・チャノス氏も、1年あまり前からテスラを空売りしていると公表しています。
チャノス氏は、多くのテスラ幹部が同社を今年辞めたのは、破綻前のエンロンを連想させると指摘し、テスラが「袋小路に向かっている」と述べています。
一方、テスラの将来性に賭けているヘッジファンドもいます。米著名投資家のジョージ・ソロス氏率いるソロス・ファンド・マネジメントです。
ソロス氏は先月15日、第1・四半期中に3500万ドル(約39億円)相当のテスラのシニア転換社債を取得したことを明らかにしました。
ソロス氏が購入したのは2019年3月償還の転換社債で、転換価格が359.87ドルです。
ソロスは当面、年0.25%の金利収入を受け取ることができ、テスラの株価が転換価格359.87ドルを超えれば、転換社債をテスラの普通株9万7000株と交換してくるでしょう。
「世紀の大火傷」か、逆転勝利か
さえない業績とは裏腹に、テスラの株価は上昇を続けています。
4月2日に252.48ドルの安値をつけてから株価は大きく反発し、今月12日には342.77ドルを記録するなど、上昇率は35%を超えました。
米国のリサーチ会社S3パートナーズによると、テスラ株の売り建玉は6月時点で126億ドルまで膨れ上がっており、空売り筋は月初からこれまでに20億9000万ドルの含み損を抱えています。
株価は長期的には企業業績に連動しますが、短期的な動きに限ると需給の影響を大きく受けます。
特にテスラのように空売りが溜まっている銘柄は、買い戻し需要が極めて大きく、何か好材料が出れば空売り筋が慌てて買い戻す「踏み上げ」が発生し、株価が吹っ飛ぶことがあります。
S3のデータによると、まだ今のところ空売り筋の踏み上げは発生していませんが、空売り筋の含み損は限界に近づいています。
「空売り勢は世紀の大火傷を負う事になる」と警告していたマスク氏が勝つのか、それとも生産目標未達でチャノス氏らの空売り勢が逆転勝利するのか、戦いは最終章を迎えています。
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