
タックスヘイブンを解説する真面目で退屈な読み物
ケイマン諸島、バージン諸島、マルタ諸島、バミューダ諸島、サモア、アメリカ合衆国デラウェア州・・・これら場所に共通することで思い当たる人も多いだろう。タックスヘイブンは、日本語で租税回避地もしくは低課税地域と呼ばれ、一定の課税が著しく軽減、ないしは完全に免除される国や地域のことを意味する。世界中の多くの金融機関や大企業、投資家たちがタックスヘイブンを利用することによる世界経済への影響と歪みを解説する。
貧富格差の拡大
国際協力団体オックスファムの2018年最新報告書では、2017年世界で新たに生み出された富の82%を世界の最も豊かな1%が手にしたことが明らかになった。一方で、世界の貧しい半分の37億人が手にした富の割合は1%未満だった。
これらの事実に対しオックスファムは、最優先事項として、「裕福な個人や大企業が租税回避のために活用するタックスヘイブンの問題に対処しなければならない」と応えている。タックスヘイブンの活用による租税回避によって、なされるべき社会への還元がなされておらず、各国政府は、税収入の減少により、貧困と格差の問題に対処するための重要な財源を失っている現実がある。事実、各国のGDPと比較してタックスヘイブンに回される資産金額は年々巨大化していることが明らかになっている。
一方、タックスヘイブンを利用する企業や富裕層側は、現代の国際金融取引において、租税負担の軽減を目的として、多くの外国資金がタックスヘイブンを経由して動いており、タックスヘイブンは企業の競争力維持のために必要不可欠な存在であるという意見がある。国際金融取引を活発化させる目的で、特に資源の乏しい国については、一定の減税措置や外国資本企業は登記費用のみで、法人税がかからない会社設立方法や通貨決済方法が設けられることは珍しくない。
ただ、タックスヘイブンがその代表者の身元や銀行口座を直接結び付けないブラックボックスである限り、公正な企業活動が行われているか審議が問われる。非利用者側からの検証も利用者側からの実証も共に不可能であるため、貧富格差の拡大以外にも、次のような弊害が起こっている。
資金洗浄目的のタックスヘイブン
例えば2007年世界金融危機では、タックスヘイブンに関わる国際金融取引実態が把握しにくいことが災いし、損失額が不明瞭化、状況の悪化を助長したとして非難された。一部のタックスヘイブンには、本国からの取締りが困難だという点に目を付けた悪質な利用の対象となる場合が多くある。例として、麻薬や武器取引などの犯罪・テロリズム行為のための資金を隠匿する場所として、暴力団やマフィアの資金や第三国からの資金が大量に流入しているといわれている。いわゆるマネーロンダリングに使われる可能性がタックスヘイブンには多くある。
問われる資本主義形態
タックスヘイブンの持つ問題点について、OECD(経済協力開発機構)では、租税対策委員会(CFA:Committee on Fiscal Affairs)を中心に設立し、OECDモデル租税条約、OECD移転価格ガイドライン等の国際協調が重要な分野における国際的に共通の課税ルールを整備するとともに、各国の有する知見や経験の共有化を図っている。税源浸食と、納税の回避を狙った人為的な利益移転に歯止めをかけるため、一連の国際的な課税規則の設定を意図した税源浸食と利益移転(BEPS)に係る多国籍企業の租税回避に対処する国際協調体制を、OECDとG20が共に行っている。
また、各種専門家は現在の世界経済を独占する資本主義に限界を感じ始めている者もいることも事実だ。税制によって所得格差を縮小させるという本来の税制機能を破壊しており、タックスヘイブンに逃げる巨額資産が格差を速度的に広がる現在に終止符を打たなければならないと唱えている。タックスヘイブンが問われている責任と課題は大きい。
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