
日本を標的にする「空売り屋」
今月1日、旅行用カバンの世界最大手ブランドであるサムソナイト・インターナショナルが、ラメシュ・タインワラCEOの辞任を発表しました。
サムソナイト社は、空売り投資家のブルー・オルカ・キャピタルから会計や企業統治の問題を指摘されており、タインワラ氏にも学歴を詐称したとの疑いがかけられていました。
同社はブルー・オルカの指摘に対して反論しましたが、結局タインワラ氏は辞任を発表、辞任発表後に同社の株価は5年ぶりの大幅高となりました。
海外では、こうした「空売り屋」と呼ばれるリサーチ会社が発表するレポートによって、企業の株価が大きく動くというケースがたびたび見られます。
日本発の「空売り屋」も誕生
日本ではあまり馴染みのない「空売り屋」ですが、実は2016年から日本発の「空売り屋」が活動を開始しています。
海外投資家向けに日本企業の調査レポートを提供するウェル・インベストメンツ・リサーチです。
荒井裕樹氏が代表を務めるウェル社は、これまでユーグレナ(2931)やSMC(6273)、アエリア(3758)に関する空売り推奨レポートを発表、レポート発表後、これらの企業の株価は平均で35%下落し、顧客であるヘッジファンドに利益をもたらしています。
同社の代表である荒井裕樹氏という名前に聞き覚えのある人も多いと思います。
荒井氏は、弁護士として「青色LED職務発明相当対価請求事件」などの著名な訴訟で勝訴を勝ち取り、たびたびメディアに取り上げられた人物です。
荒井氏は弁護士という仕事に限界を感じ、年俸4億円超という訴訟弁護士の仕事を捨てて米国に留学、株主の立場で日本企業の経営に関わり変革を迫るという志を持って金融のプレーヤーに転進した異色の経歴の持ち主です。
アエリアに関するレポートを発表して以降、ウェル社は空売り推奨レポートを発表していませんが、荒井氏の経歴も相まってマーケットの大きな注目を集めています。
「空売り屋」の本家が続々日本上陸
また、海外の著名な「空売り屋」も、数年前から続々と日本に上陸しています。
空売り投資家として有名な米国のリサーチ会社、グラウカス・リサーチとシトロン・リサーチです。
グラウカス・リサーチは、2016年7月に伊藤忠商事(8001)に関するレポートを発表、シトロン・リサーチは同年8月にCYBERDYNE(7779)に関するレポートを発表し、いずれもレポート発表後に株価は大幅下落しています。
荒井氏のウェル社がレポートを提供するだけなのに対し、グラウカスとシトロンはレポートに加え、自分たちも対象企業の株を空売りするのが特徴です。
相場操縦の可能性も
こうした彼らの行為に対して「風説の流布ではないか?」という疑問を持つ人は少なくありません。
しかし、彼らは開示資料から会計処理などの問題点を指摘しているだけに過ぎず、これらの行為は風説の流布には該当しません。
ただ問題なのは、グラウカスとシトロンがあらかじめ対象企業の株を空売りした後でレポートを公表していることです。
この行為が、「故意に利益を得る目的で相場変動を図る」という相場操縦の定義に該当すると解釈されてもおかしくありません。
事実グラウカスは過去に、ある台湾企業に関するレポート公表後、台湾地検に告発されたことがあります。
日本は静観の姿勢だが……
こうした「空売り屋」に対し、日本取引所グループの清田瞭グループCEOは「倫理的に若干疑問がある」と述べるにとどめ、金融庁・証券取引等監視委員会も様子見の状態です。
しかし、もしこうした行為が「お咎めなし」となれば、日本は儲けやすい市場だと判断した同様の空売りファンドが、大挙して日本にやってくることも考えられます。
日本が「空売り天国」とならないためにも、今後の関係当局の対応に注目しておきたいところです。
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