
ヘッジファンドが狙う一発逆転のシナリオ
ブルームバーグは、著名ヘッジファンド・マネジャーのジョン・ポールソンが自己資産を失うリスクを冒してまでも、多額の手数料を得ようと投資資金を集める戦略に着手したと報じました。(参照:追い詰められたポールソン氏、自己資金てこに高レバレッジ投資に着手)
ポールソンが契約を結んだ「ファースト・ロス方式」とは、まずポールソンがファンドの口座に自己資金入れ、資金を提供する3社がこの資金の9倍もの額を提供します。
ポールソンは、高レバレッジ投資による運用収益の約55%を手にできるかわりに、損失が出た場合はまずポールソンが入金した資金から引かれるため、最悪の場合、ポールソンの資金がゼロになる可能性もあります。
資金提供者は、もしポールソンが入金した資金が枯渇すれば、直ちに口座を閉じることができるため、損失を被ることはほぼありません。
輝きを失ったポールソン
ポールソンといえば、サブプライムローンの崩壊に賭けた取引で報酬額49億ドル(約5400億円)を稼ぎ出すなど、凄腕のヘッジファンド・マネジャーとして有名ですが、ここ数年は成績不振が続いています。
2011年、中国の造林会社サイノフォレストに投資したものの、会社が粉飾決算をしていたこと判明し、5億ドル(約547億円)の損失を出しました。(のちにサイノフォレストは破産)
また、2014年にはギリシャの銀行株やプエルトリコ債券に投資しましたが、いずれの投資でも大きな損失を出しています。
投資の失敗が続き、ポールソンのファンドはピーク時の2011年には380億ドル(約4兆2000億円)もあった運用資産が約90億ドル(約9800億円)にまで減少したと伝えられています。
ポールソンがファースト・ロス方式のような高レバレッジ投資に手を出した理由は、複数年にわたる成績不振からの一発逆転狙いであることは間違いありません。
苦境が続くヘッジファンド業界
成績不振が続いているのはポールソンだけではありません。ヘッジファンド業界全体が、成績不振による資金流出で苦境に立たされています。
ブルームバーグ・ヘッジファンド・データベースによると、ヘッジファンドの1-3月の成績はマイナス0.56%で、3月単月はマイナス0.75%、2月は2.19%のマイナスでした。
ストラテジー別にみると、CTA・マネージドフューチャーズの一種である通貨戦略の1-3月の成績はマイナス14.7%、3月単月はマイナス6.33%と最悪のパフォーマンスを記録しています。
パフォーマンス悪化の最大の原因は、ボラティリティの低下です。
CTAファンドの投資手法は、相場の上昇・下落トレンドに追随して売買を積み上げる「トレンドフォロー」が主流で、方向性がはっきりしないレンジ相場では利益を上げることができません。
JPモルガン・チェースが算出する世界の外国為替レートの3カ月物インプライド・オプション・ボラティリティーの指数をみると、今年1-3月期の平均で7.90%と、昨年の8.44%や16年の10.61%を下回りました。
トランプ大統領によるアマゾンへの「口撃」や、中国との貿易摩擦問題など、トランプの政策による混乱はあったものの、株式や債券相場の乱高下とは対照的に、為替市場では低ボラティリティの相場が続いたことがCTAファンドの成績低迷に大きく影響しました。
5月に大きく相場が動く可能性も
これまでボラティリティに恵まれなかったCTAファンドですが、5月1日・2日に開催されるFOMCでも政策金利は据え置きとなる見込みで、相場を大きく動かす要因にはならないようです。
しかし5月といえば、米国では「セルインメイ(=5月に売れ)」という格言があるように、株が売られやすく為替は円高傾向になりやすいアノマリーがあります。
また5月には、ヘッジファンドの出資者が45日前までに解約・一部換金をファンドに通知する「45日ルール」による換金売りが出やすく、売り圧力が強くなる傾向があります。
これらの要因により、相場に少しでもトレンドが発生すれば、CTAファンドがそのトレンドに追随し、一発逆転を狙って相場を大きく動かしてくる可能性は十分考えられます。
ポールソンが果たして過去の輝きを取り戻すのか、過去の人になってしまうのか。その結果は間もなくでるでしょう。
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