
原油価格高騰と為替不安の再燃?
5月8日、トランプ政権のイラン核合意離脱報道が駆け巡り、原油先物価格は上昇したがNYダウは乱高下し、金価格は下落しました。一方、為替は米ドル/円が円安方向に動き、対するユーロ/米ドルが年初来安値を更新するなど、今後、トレンドが転換する可能性が現実味を帯びてきています。
原油価格が高騰する理由と、今後の景気について纏めてみました。
なぜアメリカはイラン核合意から抜けるのか?
トランプ大統領は、米英仏独露中によるイランに対する核合意からの離脱を表明し、対イラン制裁を再開する大統領令に署名をしました。これにより、原油先物価格だけでなく、NYダウや為替なども激しく動く相場展開となりました。
今回の背景を知るには、そもそも2015年7月に最終合意されたイラン核協議とは、何だったのか? を知らなくてはなりません。
当時、政情不安を抱える国が多く存在する中東において核保有国であるイランの核開発は脅威でした。
そのためイランに対して経済制裁を行っていたのですが、事態の進展をはかるため、オバマ大統領とロシアのプーチン大統領が働きかけ、イランに核開発をやめさせ核査察を受け入れさせるかわりに経済制裁を解くことにしたのです。
主要な核保有国はオバマ大統領に同意をして、なんとか合意にこぎつけ、中東に核の不安は取り除かれたように見えたのですが、イランはその後もミサイルを使った核開発を続けていたのです。
それに対して、反発をしたのがトランプ大統領でした。
中東唯一の親米国であるイスラエルのネタニヤフ首相なども、合意そのものを否定する言動を繰り返し発信し、今回の事態にいたったと言われています。
この事態を受け、原油先物価格は現在3年5か月ぶりの高値を更新しています。
原油価格高騰で今後はどうなる?
日本の国内経済に目を向けると、原油高騰と円安は、ダブルパンチとなりそうです。ユーロ/米ドルが安値を更新した事で、暫くは米ドル/円は円安に振れて動くのは間違いなさそうですし、トランプ政権も一度決めた離脱を再度撤回することはたぶんないでしょう。
インドやトルコなど新興国にとっても、原油の調達コストの安かったここ数年は景気が良かっただけに、今回の原油高騰が新興国成長のブレーキともなりかねません。さらにイランを含めた中東諸国の政治経済にも悪影響を与えることは必至でしょう。
今回の騒動を受けて、サウジアラビアは原油の増産を示唆しました。今後は原油価格の値動きが為替に大きな影響を与えることとなりそうです。
アメリカが原油高騰を望んでいる?
アメリカとしても原油高は望んでいないはずですが、それでも今回の決断を至った背景には、単純にトランプ政権への支持率の回復をもくろむ以上の何かが潜んでいると思えます。原油先物価格が高騰しても、アメリカ株式市場はエネルギー関連に買いが集中し、連日の上昇となりました。
サウジアラビア、ロシアに次ぐ世界三番目の産油国がアメリカですが、石油消費量では依然中国を抑えて一位となっています。よって、原油価格高騰は、アメリカもダメージ大のはずですが、それでも強硬するには現在の全体的なドル高相場が関係しています。
ドル高が続いている以上は、国内の原油価格の値上がりはある程度想定の範囲内におさまるという計算も働いていたのかもしれません。
他にも、原油価格の高騰は、政策金利の上昇にも好都合となります。原油が上がればインフレとなるので、基本方針として政策金利を上げるのが大前提のトランプ政権の思惑と合致します。経済立て直しを第一にしているトランプ大統領なら、今回の決断は全て想定内の行動となりそうです。
原油リスク高まり、為替とイランの今後はどうなる?
米ドル高となる事で、今後は円安株高となる可能性も上がっていますが、原油価格が高騰しすぎると、日本経済に対して悪影響の面が強く出てしまう可能性も否定できません。
よって、考えられるのはアメリカだけ景気が良くなるのか? それとも世界経済全体に好影響を与えるか、逆に減速となるかは注意して観察していくべきでしょう。
今回の騒動を振り返ると、トランプ政権は誕生した時からイランについては厳しい政策を取り続けていて、今後はその圧力が強まる事はあっても、弱まる事は少ないと推測できます。
その結果、アメリカだけでなく、EU各国とイランの関係性も悪くなり、イランに対しては低調で希薄な経済と投資が続くと予想されています。
そのため、イランにとっては最後の望みの綱であるロシアとの関係を強固にする事が最善策だと言われています。
イランのロウハニ大統領が親露路線を歩むのであれば、一層の対立は避けられません。
アメリカとイランの神経戦とも言える我慢比べが今後も続けば、ユーロ/米ドルのにも影響を与えるでしょう。実際の原油調達コストが大きく変化するので、実態経済への影響も時間がたてば、やがて出てくることは間違いありません。
数年間の平和な時は過ぎ去り、原油価格をめぐるトレンドが本格的に転換となるかどうかに注目が集まっています。
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