
トランプが核軍縮条約を無視 INF条約破棄で冷戦状態へ逆戻りも
米国のトランプ米大統領は今月20日、米国が旧ソ連との間で結んだ中距離核戦力(INF)廃棄条約を破棄する意向であると表明しました。
トランプ大統領は、遊説で訪れたネバダ州で記者団にINF廃棄条約について「その合意を終わらせるつもりだ」と語り、「ロシアや中国が戦力を増強するのに米国だけ条約を順守することは受け入れられない」と指摘しました。
トランプ大統領は、「ロシアが合意を順守してこなかった」と改めて米国の正当性を主張し、「我々はだれよりもずっと多くのカネを持っている。人々の目が覚めるまで我々は(軍事力を)増強する」とも述べ、ロシアと中国を強く牽制しました。
また、記者団から「ロシアのプーチン大統領に対する脅しか」と問われ、「あらゆる者に対する脅しだ。(脅しの相手には)中国も、ロシアも、(私と)ゲームをしたい者はだれでも含まれる」と威嚇しました。
米露の主張が真っ向から対立
INF条約とは、1987年12月に米国とソ連の二国間で締結された史上初の核軍縮、特定兵器全廃条約(無期限)です。
INF=中距離核戦力とは、戦略核兵器(相手の政治中枢を破壊する目的の核兵器。およそ米ソ国境間の距離5500kmを超えてとばすもの)と戦術核兵器(敵部隊との遭遇戦で使用する核兵器)との中間にある核兵器という意味で、戦域核ともいいます。
米露はこれまで、同条約の規定を遵守する義務を負ってきましたが、2005年頃を境に、ロシア側からINF条約が米露のみに適用される二国間条約であることを問題視する声が上がりはじめました。
ロシア側の主張は、条約に制限されない複数の国々が、INF条約が規制する水準の中距離ミサイルを自由に開発、生産、配備しており、それがロシアに脅威を与えているというものです。
米露以外でINFに相当する中距離ミサイルを保有する国は、中国・イラン・イスラエル・北朝鮮など10カ国以上に及びます。
しかもこれらの国の中距離ミサイルは、いずれも米国本土を捉えるほどの射程は有しておらず、ロシアだけがINF条約の不利益を被っているという主張には一定の正当性があります。
一方、米国務省は2014年7月29日、年次報告の中で、「ロシアは射程500~5500kmの能力を有するGLCMの保有、製造、飛翔実験、およびそれらのランチャーの保有・製造を行わないとするINF条約の義務に違反している」との評価を下しました。
これに対し、ロシア政府は「根拠がない」とするだけでなく、「米国のイージス・アショアに使用される多目的ランチャーは、トマホークの発射に転用しうる」と、米側こそがINF条約違反を侵していると批判、両国の主張は真っ向から対立しています。
核戦争へと発展する可能性も
今回、米国が条約破棄を表明した最大の狙いは、「中国への軍事的牽制」だといわれています。
中国は保有するミサイルの9割が中距離弾道ミサイルで、米国は中国が「空母キラー」と呼ばれる弾道ミサイルの整備を進めることに強い危機感を抱いていました。
しかし、INF条約は米国が射程500~5,500キロの地上発射型弾道ミサイルや巡航ミサイルを保有するのを禁止しているため、米軍は条約が「足かせ」となって中国に対抗する兵器を配備できない状態が続いていました。
条約破棄により、インド太平洋地域での中国の封じ込めに向けた米軍の軍事的選択肢の拡大につながるのは確実で、米国が条約を破棄して核ミサイルの開発を進めれば、ロシアや中国も対抗して開発を加速させてくるでしょう。
しかし、米国は北朝鮮と非核化に向けた交渉を続けている最中であり、北朝鮮に完全な非核化を求めながら、自らは核・ミサイル開発を進めるのでは全く説得力がありません。
米中露による核開発競争に発展すれば、北朝鮮も態度を変えて非核化に応じなくなる恐れがあります。
外交や安全保障に詳しいロシアのペシュコフ上院議員は、自身のツイッターで「アメリカは世界を冷戦に引き戻そうとしている」と強く非難しています。
例えトランプ大統領の指摘しているロシアの条約違反や中国の核軍拡大への対応が事実だとしても、これが核戦争への引き金になる可能性は否定できません。
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