
巨額買収を決めた武田薬品工業は「売り」か?
5月8日、武田薬品工業がアイルランドの大手製薬メーカーのシャイアーを総額約460億ポンド(約6兆8000億円)で完全子会社化することで合意したと発表しました。
武田の提案は、シャイアー株すべてを1株当たり約49ポンド(約7400円)で買い取るというもので、現金21.75ポンドと27.26ポンド相当の武田株の組み合わせによって支払われます。
これまでの日本企業による海外企業買収の最高額は、2016年のソフトバンクグループによる英半導体設計会社アーム・ホールディングスを約3.3兆円で買収したものでしたが、今回のディールはこれを大幅に上回る巨額買収となり、武田は国内製薬メーカーとして初めて売上高で世界のトップ10入りすることになります。
マーケットの反応は冷やか
この武田の巨額買収に対するマーケットの反応は冷やかです。
武田は、買収資金を賄うため大手銀行3行と総額308億5000万ドル(約3兆3600億円)のブリッジローン契約を締結しましたが、武田の有利子負債は昨年末時点で1兆1385億円あり、この買収によりシャイアーの有利子負債2兆円と、買収費用として借り入れる3兆3600億円を加えると、有利子負債は約6.5兆円に膨らみます。
武田は今後、巨額の買収資金の返済を迫られることになり、マーケットでは財務悪化が懸念されています。
社債市場では、すでにこの買収を織り込む動きが見られ、武田薬品工業債(ドル建て、2022年償還、表面利率2.45%)の利回りは、シャイアーへの買収提案の検討が表明された3月29日からジリジリ上昇を始め、今月7日現在で3.8%台まで上昇しています。
格付け会社は、財政悪化による大幅格下げを示唆しており、さらなる資金調達コストの上昇は避けられないでしょう。
また株式市場でも、武田薬品工業の株価は3月29日から下落トレンドが続いており、今月7日までに約20%下落しています。
投資家には、買収金額の高さに加え、買収に伴う新株発行による株式の希薄化が嫌気されているようです。
しかし戦略的には評価できる
批判的な意見が目立ちますが、M&Aの戦略としては今回の巨額買収は決して間違っていません。
M&Aで重要なのは、買収によるシナジー効果で企業価値を上げることです。
シャイアーは、米国の売り上げが6割超を占め、最大市場である米国への進出を加速したい武田にとって理想的な相手であり、シナジー効果による企業価値の向上が十分期待できます。
また、約6兆8000億円という買収金額が「高値掴みではないか?」という点についても、別の見方ができます。
シャイアーは、2017年10月期に42.7億ドル(約4,672億円)の純利益を上げており、今後もこの利益水準が続くならば、PER(株価収益率)は約15倍と武田のPER約22倍に比べて割安の水準で、1株当たり利益の希薄化はそれほど生じない可能性もあります。
バリュエーションを見ても、株価下落により配当利回りは4%近くまで上昇しています。
もし、この買収が将来的に良い買収だったと評価されれば、長期的に株価が上昇する可能性が高く、万が一買収が破談になった場合でも、買収による財務悪化懸念で売られた株価のリバウンドが期待できるでしょう。
巨額買収の評価は長期的視点で
世界の製薬業界において巨額買収は珍しくありません。
製薬会社は、新薬開発に巨額の開発費がかかり、また上市(新薬を市販品として発売すること)できる確率は2万~3万分の1と、極めてリスクが高く、自社の新薬開発だけに頼るのではなく、上市間近な新薬を持っている企業を買収した方が確実です。
武田としては、世界の「メガファーマ」入りを果すため、買収による財務悪化リスクを冒してでもシャイアーが持つ高い利益が見込める新薬候補品を取り込みたかったのでしょう。
巨額買収の成否の判断には、数年~10年ほど要します。
この武田の乾坤一擲の大勝負を評価するためには、目先の株価下落に捉われることなく、長期的な目線で判断することが重要です。
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