
武田薬品の巨額M&Aは為替相場にも影響
武田薬品がアイルランドの製薬大手シャイアーと買収交渉を行い、最終合意も目前と報道されている。
実現すれば過去最大の買収劇となるが、そのインパクトから為替相場にも影響するだけでなく、製薬会社の再編や日本経済にも影響を与える事は必須となりそうだ。
武田薬品の今後は安心できるか?
今回のような大型M&Aが報道されると、景気あるいは業績が好調だから買収するのか、それとも先行き不透明だからこその攻めの買収なのか、意見が分かれるところです。
先月までは、武田薬品に対する財務状況悪化などが報道され、社長であるウェバー氏の手腕に疑問を投げかけ、また買収自体も頓挫する雲行きで、どちらかといえば買収を歓迎しない向きでした。ところが時間が経過し、最終交渉に入り買収が実現しそうとなると手のひら返しで、好感する報道が増えつつあります。
これは武田薬品に限らず、日本経済にも言える事で、短期的と長期的という単語を状況に応じて都合よく使ってしまう事が多々あります。
業績悪化報道が出る前は、武田薬品を始めとした国内製薬会社というのは、世界の主要製薬会社と比較すると売上高などでまったく歯が立たず、世界ランキングでも国内最大手・武田薬品でさえ20位前後に入るのがやっとでした。近い将来、国内製薬会社は海外に買収されるというのが共通認識でした。
ところが、武田薬品が買収をまとめれば、ランキング10位程度になる事から、今度は日本経済を引き合いに出し、力強さや堅調さを指摘するだけでなく、過去の大型買収ケースを例に出し円安に作用する超楽観論を繰り広げる始末。
客観的にみるなら、短期的には円安影響を与える程の大型買収であるし、燻り続ける国内製薬会社に対しても良い可能性を示したが、長期的にみるなら持続的な円安効果がなく、また製薬会社の再編を加速させたのが、今回の買収劇そのものではないでしょうか。
下落が続く武田薬品株
現状では武田薬品とシャイアーを合わせても、世界最大手ロシュやファイザーの半分程度の売上高で、さらに有利子負債約1兆1000億円も今後膨らむ事が想定されるので安泰どころか不安材料が多いといえます。
このままでは、一時的な円安に作用させた功労者とはなりますが、自社の展望としては目指す先を見誤ったと非難されても仕方がないでしょう。現に、武田薬品の株価は今回の報道が出た後も下落が続き、市場から経営失敗の烙印を押されかねません。
過去の日本企業による巨額M&Aの苦い記憶
他方で、製薬会社以外の業界も含めた日本経済全体で捉えるなら、今回の買収はソフトバンクが英ボーダフォン、米スプリント(携帯)、英アーム(半導体)を買収して以来の久しぶりの巨額買収となります。
買収先の規模に差があるとは言え、ソフトバンクのケースはボーダフォンとスプリントが約1兆7000~8000億円、アームでも約3兆7000億となり、比較しても武田薬品の買収は過去に例を見ないほど突出しています。
現状は不安面が多く、武田製薬の株価も下がっています。その背景には、過去の買収の失敗が影響をしていると言われています。ソフトバンクは他と違い、買収で成功を収めているレアケースですが、記憶に新しいのは東芝の米ウェスチングハウス買収で、これにより原発事業で苦しめられ巨額損失や債務超過で一気に失墜しました。
東芝ほどダメージがなくても、キリン、丸紅、日本郵政など海外企業の買収で苦しめられた日本企業はいくつもあります。
大企業ほどM&Aを繰り返す時代
今回の買収劇がソフトバンクのように成功し、重苦しい日本経済にぽっかり風穴を開けるなら、武田製薬が果たした貢献はとても大きいといえます。日本の大企業が、もう一つ上の世界的な企業になるなら、海外進出と企業買収は避けては通れない道でしょう。日本マーケットの小ささや停滞もありますが、世界で勝負するトヨタや任天堂、ソフトバンクなどの業績をみれば、それは一目瞭然です。
何より、世界的な大企業ほど買収を繰り返すので、もし日本企業が参戦しなければ、ますますこの差が広がってしまうでしょう。買収されるリスクもありますが、国内だけで勝負をして勝ち残れる時代は、終了してしまったと言わざるをえません。
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