
ドイツ銀行による悪夢の再来
ドイツ銀行が厳しい逆風にさらされています。
5月31日、米監督当局が同行の米子会社を問題銀行のリストに加えたと報じられ、同行の株価はフランクフルト市場で一時7.2%安の9.16ユーロと過去最低を更新しました。
また、S&Pグローバル・レーティングは今月1日、同行の格付けを「A-」から1段階引き下げ「BBB+」とすることを発表しています。
かつて「欧州最強の銀行」と呼ばれたドイツ銀行に、一体何が起こっているのでしょうか?
最初のつまずきは「英国のEU離脱」と「フォルクスワーゲン」
同行の危機が伝えられたのは、実は今回が初めてではありません。
特に2016年には、「英国のEU離脱」と「フォルクスワーゲン社への融資」という、同行の屋台骨を揺るがす問題が起きています。
2016年6月に英国のEU離脱が決定しましたが、同行は英国向けの融資残高が多く、ポンド安などの通貨不安によって大打撃を受けるとの懸念から、EU離脱決定後に株価は急落しました。
またドイツ政府は、排気ガス不正問題によって倒産の危機にあったフォルクスワーゲンの取引銀行である同行に対して、約1兆円の融資をすることを指示し、これが同行の経営危機に追い打ちをかけることになりました。
大打撃となった「巨額和解金支払金要求」
そして上記の2つの問題と同年の2016年、同行の経営に大打撃を与える「巨額和解金支払要求問題」が発生します。
米国の司法省は同行に対し、過去のモーゲージ担保証券(MBS)の不適切販売をめぐり72億ドル(約7,900億円)の和解金を支払うよう命じました。
またMBSの訴訟以外にも、外貨不正取引や高頻度取引での不正行為、米ドルLIBOR・日本円LIBOR・ユーロ円TIBOR不正操作に関するものなど、立て続けに訴訟を起こされました。
数えきれないほどの訴訟の中には現在係争中の訴訟もあり、和解に必要な資金が調達できない可能性も指摘されています。
米監督当局は、何年も前から同行の米国事業に懸念を抱いてきました。
2013年には、ニューヨーク連銀から同行の報告体制を批判され、2016年のFRB(米連邦準備理事会)のストレステストでは、リスク管理に欠陥があるとして米子会社が不合格となっています。
同行のゼービングCEOは、経営再建のために米国での株式取引やプライムブローカレッジ業務の削減を検討していますが、今回米国の監督当局から警戒レベルがさらに引き上げられたことにより、米国から完全撤退するのでは?との噂も聞かれます。
リーマン・ショック以上の金融危機も
もし同行が、米国からの完全撤退にとどまらず経営破綻に追い込まれる事態になれば、リーマン・ショック以上の深刻な金融危機に陥ることになるでしょう。
同行のデリバティブ残高は、ドイツGDPの約20倍、ユーロ圏全体の約6倍とされており、保有するデリバティブのエクスポージャー(リスクにさらされている想定元本)は約4870兆円にものぼります。
その中にはEU離脱に絡んだ商品も多く含まれていることから、ドイツ銀行がデリバティブで巨額の含み損を抱えているとの観測も強まっています。
2008年の金融危機前にサブプライム住宅ローンの崩壊を予見したことで知られるニューバーガー・バーマン・グループのスティーブ・アイズマン氏は、香港でのブルームバーグテレビジョンとのインタビューでドイツ銀行株を空売りすることを勧めると発言しました。
アイズマン氏は、「ドイツ銀行は収益性の問題を抱えている」とし、「劇的な縮小」が必要だと指摘しています。
同行には長期的で深刻な金融危機に対応できるほどの資本はなく、経営破綻という最悪のシナリオになれば、公的資金を使った国有化は避けられません。
「世紀の空売り」で名を馳せたアイズマン氏の予言通りになるか、同行の今後の動向にマーケット関係者が注目しています。
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