2017年3月末英メイ首相が正式に欧州連合を離脱する意思を表明してから、早1年が経過しています。
離脱交渉の経過やイギリス経済の動向も含め、2018年の欧州連合経済動向展望を分析していきます。
冷静に欧州連合の経済成長率を見てみよう
2018年1月に発行されたIMF世界経済見通しでは、欧州連合の2017年度年間推計では2.4%と、日本やアメリカを含む先進国全体平均の2.3%を0.1%上回る結果となりました。
このハードデータでは、2016年の1.8%から2017年は2.4%と、過去10年間で最高の成長率をみせています。国別では、イギリスを除いてその多くで経済成長率が上方修正されており、特にドイツ、イタリア、オランダの伸びが顕著となっています。
これは、各国内の内需の勢いが増していることと、外需が拡大していることを反映しているとIMFは分析しています。
欧州連合全体の経済成長は、2018年2.2%に留まる予想となっています。
ソフトデータとしても、欧州進出日系企業1,154社を対象とし、2017年12月に公開されたジェトロの「2017年度欧州進出日系企業実態調査」では、全般的に欧州の景気回復に伴い、在欧日系企業の「黒字」割合が年々増加しているという結果を表しました。
イギリスのEU離脱の交渉は現在どうなっているのか?
上記のように欧州経済全体は順調な景気状態が続いていますが、2018年はイギリスのEU離脱交渉が最大の不安材料として残っています。2017年12月イギリスとEUは「第1段階」の交渉で、清算金の支払い、イギリスとEUの市民が外国人として双方に住む際の権利、北アイルランド国境という3つの主要な離脱条件について合意を示しました。
2018年現在は、「第2段階」に入っており、新たな自由貿易協定(FTA)の締結を目指しています。ただ、イギリスのEU単一市場の恩恵を享受したい目論見を認識しながら、EU側は残っているメンバーに前例の無い今回のケースを、イギリスの良いとこ取りを認めない構えで交渉するものだろうと多くの世論で語られています。
また、先ほどのジェトロの調査では、イギリスのEU離脱に備え、拠点の見直しを実施・検討している在英日系企業54社のうち8割以上が該当機能の「一部移転」を、2割弱が「全部移転」を挙げていることにも注目が必要です。移転先候補国としては、「ドイツ」が23社と最多で、「オランダ」(6社)が続いています。一部の欧州国からすると、日本のみならず海外の在英外国企業の商業活動のイギリスから自国の移転は、国内の生産活動を上げるチャンスにも繋がっています。
各国企業のイギリス離れに歯止めはかかるのか
イギリスを拠点に活動する欧州の企業は数多く、交渉の成否は英経済だけでなく、欧州経済全体に影響します。仮に貿易交渉が決裂した場合、これまでなかった関税が両者側にかかるなど、経済活動の停滞が避けられそうにありません。
たとえばジェトロの調査では、イギリスがEU単一市場・関税同盟に残留できず、イギリス・EU間で通関手続きが発生することとなる場合、もし関税率が0%だったとしても、約6割の在英日系製造業がイギリスのEU離脱日から1年以上の移行期間が必要と回答しました。在英日系製造業では、イギリスからの平均調達率が2割以上である一方、イギリスを除くEUからの平均調達率も2割近くあり、イギリス・EU間の取引に関税が課される場合には、サプライチェーンの見直しが必須となる可能性が高くあります。
欧州委員会は、2017年11月の会合でイギリスのEU離脱の先行きがすでに彼らの経済活動に影響を与えていると指摘しました。2017年のイギリスの成長率は、2015年の2.3%、2016年の1.8%から1.5%に低下し、2018年も1.5%に留まる見込みです。欧州委員会は、イギリスは今後数年間、不透明感の高まりから対内事業投資が抑制され、純輸出の伸びは輸出市場に沿ってわずかに増加するのみではないかと指摘しました。
現在先進国を覆う内向き志向は、イギリスのEU離脱だけに限らず、トランプ大統領による環太平洋パートナーシップ(TPP)離脱や北米自由貿易協定(NAFTA)、米韓自由貿易協定(KORUS)の再交渉、付随する移民政策強化など、一部欧米諸国でグローバル化に逆行して支持が拡大しています。こうした交渉の過程で、貿易障壁の増加と規制の再編成によって、国際投資が阻害され、生産効率が低下し、先進国、新興市場国、発展途上国を問わず、全世界に潜在成長率の重荷となるかもしれないという見解がIMFからも発表されています。
日本のメディアでは、イギリスのEU離脱時に大きく取り上げられましたが、その後の展開は、多くの方はご存知ないと思われます。今後もヨーロッパの経済動向を含めてお伝えしていきたいと思います。
参考記事:
- EUObserver
https://euobserver.com/economic/139825 - IMF世界経済見通し
https://www.imf.org/ja/Publications/WEO/Issues/2018/01/11/world-economic-outlook-update-january-2018 - 外務省
http://www.mofa.go.jp/mofaj/ila/et/page22_001865.html - 日本関税協会
http://www.kanzei.or.jp/topic/international/2018/for20180301.htm - ジェトロ世界貿易投資報告 2017年版
https://www.jetro.go.jp/ext_images/_News/releases/2017/7aea93e5ad0dc1c8/2r-1708.pdf - ジェトロ「2017年度欧州進出日系企業実態調査」の結果
https://www.jetro.go.jp/news/releases/2017/73f8a5b5c932117d.html
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